椅子のDesignから歴史を紐解く〜その3〜

ウィグル・サイドチェア|フランク・O・ゲーリー

時代背景

製作年は1972年です。見てもわかるかと思いますが、この椅子の素材は段ボールです。ボール紙の家具は1960年代にそれまでの伝統的家具に対する、安価で軽量な代替品として登場していました。その当時の椅子は強度的にも問題があり、世の中に評価されるまでには至りませんでした。

椅子のデザイン性

幾年かし、フランク・O・ゲーリーは段ボール家具の製作を確実にするためのプロセスを発見した。そのDesignに至る過程を彼をこう説明しています。
「ある日、事務所の外に波型段ボールの山を見て、それが自分の好きな建築材料に似ていたことから、あれやこれやといじり回し、貼りあわせ、ナイフで成型していった。」
写真からもわかるように、段ボールの溝方向を交互に直角に貼り合わせた層で構成されています。この構造により、驚くほどの強度を得られる段ボールの椅子が完成したのです。ゲーリーはこの作品で成功を収めたが、本人はこの成功を決して喜ばなかったそうです。
それは皮肉にも世間から賞賛を浴びた結果、彼の最初のコンセプトである「誰の財布にも合う家具の提供」から、かけ離れていくことになっていってしまったからです。

個人的主観


モチーフは、以前取り上げたリートフェルトが製作したジグザグチェアをゲーリーなりに作り変えていったような印象ですね。
左の写真は、発表時の広告に使用されたものです。3つのウィグル・サイドチェアで車を支えています。段ボールだけでかなりの重量物を支えてしまう光景は圧巻ですね。
世の中の賞賛により、自分の意図しない方向に流れていってしまったため、ゲーリーは何週間も閉じこもり、Designすることから引退することも考えたそうです。


自分のコンセプトから離れていって作品が一人歩きする様は本当に辛いことだろうと想像します。私たち建築家のメディアに対する対応を考えさせられる事柄ですね。